「うるさいよ!!放っておいてくれ!!」
そう怒鳴って手をデスクに叩きつけ、スギを睨む。
この時すでに、
『あぁ……なんでこんなこと言ってるんだろう……』
って後悔してる自分もいるんだけど、その場の勢いで引っ込みがつかなくなってたんだ。
スギは、少しの間僕の顔を見ていて、それからどこかへ出かけていってしまった。
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事の顛末は単純すぎるほど単純だった。
僕が、作曲作業が思うように進まなくてイライラしていた。ただそれだけ。
気を使って声をかけてくれたスギに八つ当たりだなんて、最低だ。
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スギが出ていって1分もしないうちに後悔タイムはやってきた。
誰がどう見たって僕が悪いと思うだろうし、僕だって僕が悪いって思ってる。
だったら、早くスギに謝ればいいって、それは分かってるんだけど、ついさっき怒鳴り散らしちゃったばっかりだから、いきなりケータイにかけても、スギだって怒ってるだろう。
出てくれないかもしれないし、出てくれてもスギが僕に思いっきり怒ってきたら、僕達の関係がどうなっちゃうかも知れたもんじゃない。
あぁスギレオも解散しちゃうのかなー…なんて、思考がネガティブに行ってるところで、ケータイの着信音が鳴り響いた。
思わず飛び上がってディスプレイを確認する。
ディスプレイの名前は、スギではなかったけど、僕が大好きな女の子の名前だった。
「もしもし!さなえちゃん?!」
『もしもし。レオくん、今大丈夫?』
「あぁ、うん、大丈夫だよ。どうしたの?」
『お仕事は?忙しくない?』
「あぁ……うん、ちょっと今煮詰まっちゃっててさ」
『ね、あのね、もし良かったら、今から気分転換にお出かけしない?』
「え、今から?」
『うん。ほら、煮詰まってるときはリフレッシュも大事だって、よく言うでしょう?』
今日のさなえちゃんは、いつもより積極的だ。
さなえちゃんは基本的に、僕の仕事が忙しい時は、あまりワガママを言ったりしない。
僕の仕事を理解してくれてるってのは嬉しいし、感謝もしてるんだけど、たまにはワガママを言って欲しいって思うときもある。叶えてあげられるかどうかは、また別だけどさ。
今日は、僕もこのまま作業を続けても捗りそうにないし、さなえちゃんに付き合ってリフレッシュするのもいいかもな。
「そうだね、じゃあお出かけしようかな」
『良かった!じゃあいつもの場所に30分後とかでどう?』
「分かった。またね」
いくらいろいろあったからって、さなえちゃんの前でみっともない顔をするわけにはいかない。
僕は出かける準備をするべく、超特急で洗面所に入った。
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「お待たせ」
「ううん、今来たところよ。それじゃ、行きましょう」
「まずどこに行く?いつものレコードショップかな?」
僕がそう言うと、さなえちゃんは、くすくすと笑って
「やっぱりいつでも音楽のことなのね。レオくんらしいわ」
と言った後で、
「でも、レオくんはがんばりすぎ、な気もするわ。いつも音楽のことを考えてて、それはとっても大事なことだって思うけど、いつもそれじゃあレオくんがパンクしちゃうもの」
と、心配そうに眉をひそめた。
「ね、今日は行ってみたい雑貨屋さんがあるの。だめ?」
さなえちゃんのおねだりに僕は弱い。
「いいよ」
「良かった!」
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珍しくはしゃぎ気味だったにしては、さなえちゃんが買ったものは少なめだった。
「それだけでいいのかい?」
「うん。ね、ね、最後にお茶しましょ!この近くにオススメの喫茶店があるの」
そう言ったさなえちゃんの後をついていくと、ちょっとお洒落な雰囲気の喫茶店があった。
うん、確かにBGMも雰囲気が出てる、なんて考えてたら、
「もー、また音楽のこと考えてたでしょ?」
なんてさなえちゃんに苦笑されてしまった。どうやらお見通しらしい。
「お仕事、大変なんだって?」
さなえちゃんのカフェラテとブルーベリーパイ、僕のブラックコーヒーとガトーショコラが運ばれてきたタイミングで、 さなえちゃんは切り出した。
「私は、レオくんのつくる音楽のこと、分からないしお手伝いすることもできないわ。でも、レオくんが疲れた時に、そばにいることくらいならできると思うの。私が必要な時は、もっと頼ってほしいな」
一気にそう言って、さなえちゃんは困ったような、泣きそうな微笑みを浮かべた。
ごめん。情けない男で。
違う。さなえちゃんに、もっと僕を頼って欲しいんだ。
そんないろんな感情が渦巻いて、僕まで泣きそうになっちゃったけど、なんとか笑みを浮かべて、ありがとう、と言うことができた。
「ありがとう、さなえちゃん。おかげでリフレッシュできたし、疲れも吹き飛んだ気がするよ。またがんばれそうだ」
そう言うと、さなえちゃんは、彼女らしいふわっとした暖かい微笑みを浮かべた。
「良かった!実はね、スギくんから連絡をもらったの」
「スギが?」
「うん、その……レオくんが大分参ってるみたいだから励ましてやってくれ、って」
知らなかった。
スギはもう怒ってしまったものだと思い込んでいた。
「さなえちゃん」
「ん?なに?」
「実は……」
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「そう、それでスギくんとケンカしちゃったのね」
「ケンカっていうか、僕が一方的に八つ当たりしちゃって……。スギには酷いことをしちゃった。謝らなくちゃ、って思うんだけど……」
「まぁ~~~~~~ったく、僕がレオの行動パターンくらい分からない訳がないだろ?」
背中から、聞き覚えのある声が。
振り向くと、何故かそこにスギが居た。
驚きのあまり言葉も出ない。
えっ、と思わず前を見ると、さなえちゃんが胸の前で両手を合わせて、ごめんね、のポーズをしていた。
どうやら仕組まれていたらしい。
「で、お疲れのレオくん、さなえちゃんとデートして元気出た?」
「あ、あぁ、うん、えーっと、おかげさまで」
「なら良かった。明日からまたがんばってもらうんだから、いつまでもヘタレてちゃ困るよ、相棒?」
「あ、スギ……その、さっきは……」
「ストップ!言わなくても分かってるさ。付き合い長いんだから」
スギは、呆れたような顔で笑っていた。
「じゃ、デートの続き、楽しんでおいで。さなえちゃん、デート邪魔しちゃってごめんね」
そう言って、ひらひらと手を振りながら立ち去っていった。
「スギ!今度君が落ち込んでる時は、僕が力になるから!」
その背中に叫ぶと、
「僕は要らないよ、完璧なんだから」
振り向きざまにニヤリと笑って店を出ていった。
……可愛気のないヤツめ。
「ふたりとも、お互いのことを何から何まで分かり合ってるのね。羨ましいな」
そう言ってニコニコ笑うさなえちゃん。
「ううん、さなえちゃんのおかげだよ。確かにスギは僕のことを何から何まで知ってるかもしれないけど、こんなに僕を元気にするのは、さなえちゃんしかできないからね」
そう言うと、顔を少し赤くするさなえちゃん。
いいことを思いついた。
「ね、さなえちゃん。さなえちゃんにしかできない方法で、僕にもっと元気をくれないかな?」
そう言いながら、彼女の頬に手を伸ばす。
すっかりいつもの調子を取り戻した僕。
すると、さなえちゃんは、もっと顔を赤くしながら、こくり、と小さく頷いて目を閉じた。可愛い。
さなえちゃん、今日は本当にありがとう。
その気持ちを込めて、僕は彼女の顔に唇を寄せた。